技術編で学んだことを応用して、実際の英文を翻訳してみましょう。
ここでは、技術文書によく現れる手順説明を翻訳します。簡単な英文ですが、いくつもの翻訳テクニックを的確に適用していく必要があります。
単に英文を翻訳するだけではなく、どのように考えながら翻訳していくか、丁寧に追っていきます。 翻訳中の注意点や、実務のポイントについても触れます。
この章の目次
- 課題文
- タイトルの翻訳
- 機能説明の翻訳 (1文目)
- 機能説明の翻訳 (2文目)
- 小見出しの翻訳
- 箇条書き1の翻訳 (1文目)
- 箇条書き1の翻訳 (2文目)
- 箇条書き2の翻訳
- 箇条書き3の翻訳
- 箇条書き4の翻訳
- 小見出しの翻訳
- 箇条書き5の翻訳
- 続く箇条書きの翻訳 (1)
- 続く箇条書きの翻訳 (2)
- 続く箇条書きの翻訳 (3)
- 図のキャプションの翻訳
- 完成した訳文
課題文
ここでは以下の英文を翻訳します。 この英文は、アメリカ特許商標庁 (USPTO) のWebサイトにおいて特許明細書の閲覧画面で行える操作についての説明から抜粋したものです。
Patent Public Search - Adding notes to images
In Patent Public Search, you can add notes to the image form of documents and view those notes in an adjacent pane. You can also add tags, note relevant claims, include highlights in Notes, and print all document Notes.
Add Notes
1. In the Document Viewer Image view, right-click and select Add Note from the expanded menu; see Figure 1.
An Add Note window opens; see Figure 2.
2. Enter text in the Note Text field.
3. Select a particular highlight color or No Color from Styling Options.
4. Enter related claims if necessary.
Continued...
(注: 原典ではここで改ページしている)
Add Notes (continued)
5. Click the Add button; see Figure 2.
・A note marker, a colored circle in the Document Viewer, will appear when a note has been added; see Figure 3.
・Select View Notes from this document from the expanded right-click menu to open the Notes Viewer gadget and see all notes in a list form.
・To delete a note, right-click the note marker and select Remove Note from the expanded menu.
Figure 1. Right-click menu
Figure 2. Add note window
Figure 3. Document with note marker
(注: 図のキャプションは最後にまとめました)
出典: Patent Public Search - Adding notes to images (https://ppubs.uspto.gov/pubwebapp/static/assets/files/Search%20add%20notes%20QRG%20-%20Patent%20Public%20Search.pdf)
この英文を翻訳してみましょう。
タイトルの翻訳
今回翻訳するのはマニュアルの一部です。原文の1行目はタイトルになっています。
さっそく翻訳しましょう!……と言いたいところですが、翻訳のときに1行目から順に訳文を書いていくとは限りません。特に、タイトルは文書や章・節の内容を代表する重要な箇所なので、本文の内容を的確に反映する訳でなければなりません。 内容を把握しないままタイトルの翻訳に取りかかると、的外れな訳になってしまうおそれがあります。 適切な訳語をあてるには、先に本文を翻訳してからタイトルの翻訳に戻るのがベストです。
ただし、最後に必ずタイトルに戻って翻訳することを忘れてはなりません。タイトルが未翻訳のまま納品してしまったら大変です。翻訳を保留すると、このようなリスクを負うことになります。保留はできるだけ避けるべきですが、ごく小規模な翻訳でない限り、1箇所も保留せずに翻訳が完了することはまずありません。
今回のタイトルはどうでしょうか。
今回翻訳するのは操作の説明ですから、凝ったタイトルになるわけでもありません。原文を見ても、これから説明する内容をズバリ言い表しており、原文の解釈に迷うところもありません。このような場合は、今の時点でタイトルを翻訳して構いません。翻訳を保留しなければ、戻って翻訳するのを忘れてしまうこともなく、安全です。
いよいよ翻訳に取りかかります。
Patent Public Searchは、USPTOがWeb上で提供しているサービスの名称です。サービスの名称ですから固有名詞の性格も持ち合わせていますが、固有名詞として英字のままにしてしまっては日本人ユーザにとって分かりにくくなります。 大規模なローカライズでは翻訳前に日本語版サービスの名称が決定されて翻訳者に通知されることが多いのですが、小規模なローカライズでは日本語版の名称も翻訳者が提案することがあります。
ここでは、翻訳者の裁量に任されていると想定し、分かりやすく日本語に置き換えることにします。逐語訳で「特許公開検索」と翻訳してOKです。 この訳語は翻訳メモに記載しておきます。
注: 翻訳メモには、翻訳上の申し送り事項を記載します。サービスの名称は、影響範囲の広い重要な語句なので、原文のどの位置に出現したどの語句にどのような訳語をあてたかを翻訳メモに記載して、その翻訳メモを訳文と一緒に納品します。
翻訳に戻りましょう。次の「Adding notes to images」のうち、noteは注釈のことです。「メモ」と翻訳すると分かりやすいでしょう。
「Adding notes to images」は画像にメモを追加することを表しますが、翻訳方法はいくつか考えられます。
(訳1-1) 特許公開検索 - 画像にメモを追加する
(訳1-2) 特許公開検索 - 画像にメモを追加
(訳1-3) 特許公開検索 - 画像へのメモの追加
訳1-1は、addingを動詞として訳出したものです。 訳1-2は末尾の「する」を省略して見出しらしくしたものです。 訳1-3は、Adding...を名詞節として訳出したものです。
それぞれの翻訳方法には一長一短があります。
訳1-1のように動詞として訳出すると一番楽ですが、タイトルとして締まりがなくなる場合があります。逆に、名詞的に翻訳しようとすると、訳1-3のように「……の……の」と続いて苦しくなってしまいます。
タイトルをどのように書くかはクライアント (翻訳の依頼主) の指示に従います。特に指示がなければ、文書全体で方針を統一して翻訳します。
ここでは、手順の説明であることから、動詞として訳出して構いません。最終的な訳文は以下のようになります。
機能説明の翻訳 (1文目)
タイトルの後では、機能についておおまかに説明しています。マニュアルの典型的な構成であり、読者の理解もスムーズに進みます。
1文ずつ翻訳していきましょう。
英文を翻訳するときには、まず英文の構造を分析します。原文2の構造は以下のとおりです。
可能・不可能を表す助動詞canが使われています。「……できる」と翻訳しますが、日本語では文末に書くため、最後に訳出することになります。翻訳を後回しにすると、保留した箇所の翻訳を忘れやすくなります。忘れずに最後にcanを訳出するように、特に注意する必要があります。
canの後には、add ... and view ...と動詞句が2つ並列に書かれています。まずそれぞれの動詞句を翻訳し、その後でそれらの訳をつなぎます。
最初の動詞句は (原文2-1) add notes to the image form of documents です。the image form of documentsの翻訳ではofに注意します。単位や形式の後に付くofですから、「文書の画像形式」ではなくて「画像形式の文書」です。
(原文2-1) add notes to the image form of documents
(訳2-1-1) 画像形式の文書にメモを追加する
「メモを画像形式の文書に追加する」とは翻訳しません。 訳文では「メモを」と「画像形式の文書に」が「追加する」にかかりますが、 日本語では語順の原則として 長い語句は前に、短い語句は後ろに置く と文が読みやすく分かりやすくなります。ここでは、 「メモを」と「画像形式の文書に」を比べて、長い方を前に置き、 画像形式の文書に メモを 追加する とします。
次の動詞句にはviewが出てきます。見ることを意味しますが、どのようなメモが文書に付いているかを見るのですから、訳語としては「確認する」が適切でしょう。このview ...の翻訳でも2とおりの語順を考えることができます。
(原文2-2) view those notes in an adjacent pane
(訳2-2-1) 隣のペインでそれらのメモを確認する
(訳2-2-2) それらのメモを隣のペインで確認する
どちらの訳がよいでしょうか。
語順の原則に従えば「長い語句は前に、短い語句は後ろに置く」ことになりますが、今回はどちらも同じような長さです。しかし、「それらのメモ」(those notes) は前の動詞句 (add notes to ...) のnotesを受けています。話の流れを考えると、「それらのメモ」を前に出す方が文がスムーズにつながります。このことから、view those notes ...は それらのメモを隣のペインで確認する と翻訳することにします。
以上で、2つの動詞句の訳がそろいました。
(原文2-1) add notes to the image form of documents
(訳2-1-1) 画像形式の文書にメモを追加する
(原文2-2) view those notes in an adjacent pane
(訳2-2-2) それらのメモを隣のペインで確認する
原文では、この2つの動詞句がandでつながっています。andはどのように翻訳したらよいでしょうか。
andの翻訳方法はいくつも考えられます。
- ……を追加して……を表示する
- ……の追加および……の表示を行う
- ……を追加したり……を表示したりする
今回の文脈では、addした後にviewするという意味ではなく、操作がaddとviewに限られるわけでもありません (次の文で他の操作について述べています)。多くの操作のうち、メモに関する操作を2つ例示しているに過ぎないので、「……したり……したり」と翻訳することにします。
訳2-1-1と訳2-2-2を「……たり……たり」でつなげると、 画像形式の文書にメモを追加したり、そのメモを隣のペインで確認したりする となります。
最終的な訳文では、文末でcanを訳出するのを忘れないようにしましょう。
(原文2) In Patent Public Search, you can add notes to the image form of documents and view those notes in an adjacent pane.
(訳2-3-1) 特許公開検索では、画像形式の文書にメモを追加したり、それらのメモを隣のペインで確認したりすることができます。
日本語では特に単数と複数を意識しないので、 (訳2-3-2) 特許公開検索では、画像形式の文書にメモを追加したり、そのメモを隣のペインで確認したりすることができます。 と翻訳することもできます。ここでは後者 (訳2-3-2) を採用します。
注: 2022年10月18日の時点では、実際にPatent Public Searchを操作してメニューから [View Notes for this document] を選択しても、メモの一覧が別ウィンドウで開き、adjacent paneで開くわけではありませんでした。ひょっとすると、操作画面が新しくなってもマニュアルの記述が更新されていないのかもしれません。しかし、単なるミスタイプのような軽微な不整合ではないので、原文を勝手に読み替えて翻訳するわけにもいきません。このような不整合を見つけた場合は、申し送り事項として翻訳メモに記載します。
機能説明の翻訳 (2文目)
次の文に進みます。
最初にすることは構造の分析です。原文3の構造は以下のとおりです。
ここでも助動詞canが使われています。canの訳を忘れないように注意する必要があります。
1つの文の中でnotesとNotesという2とおりの表記が見られます。 大文字と小文字を使い分けてそれぞれ別のものを指していることがあるので注意が必要です。 しかし、他の箇所を読んでも、Notesという特定の何か (例えばNotes画面) があるわけではなさそうです。 どうやら、使い分けというより、表記が揺れているだけのように見受けられます。notesもNotesも同じと見なして翻訳します。
relevantは、この文を読んでも何がどのように関係するか判然としません。「関連する」と翻訳しておきましょう。文脈に応じて「対応する」「該当する」と翻訳することもできますが、意味が絞り込まれてくるので、何がどのようにrelevantなのか明確になってから使うのが安全です。
highlightはどのように翻訳したらよいでしょうか。 ここでのhighlightはPatent Public Search固有の機能であり、強調のために付ける印です。 ここでは、そのままカタカナ表記して「ハイライト」としておきます。「ハイライト」と言われてもピンときませんが、今はこの訳語を使用することにします。
もちろん、実際の機能をよく反映する分かりやすい訳語をあてられればベストです。 しかし、そのためには、後から出てくる用語と重ならないように訳語を選択する必要があります。 翻訳の実務では、全体をすべて読み通してから翻訳に取りかかるだけの時間を取れないことも多いので、まず固有の訳をあてておき、気に入らなければ後で訳語を変更するのが現実的です。
原文の構造を分析し、用語の課題をクリアしたら、原文に4つある動詞句をそれぞれ翻訳してつなぎます。動詞句をいくつも翻訳しているうちにcanやalsoの翻訳を忘れてしまうことがあるので注意しましょう。
(原文3) You can also add tags, note relevant claims, include highlights in Notes, and print all document Notes.
(訳3-1) タグを追加したり、関連する請求項をメモしたり、メモにハイライトを付けたり、すべての文書メモを印刷したりすることもできます。
前の文 (原文2) から続いているので、訳文の文頭に「また」を置くこともできます。
(訳3-2) また、タグを追加したり、関連する請求項をメモしたり、メモにハイライトを付けたり、すべての文書メモを印刷したりすることもできます。
「また」はあってもなくても構いません。日本語に対する好みの問題に過ぎません。 訳2-2とつなげて、印象を比べてみてください。
(訳2-2・3-1) 特許公開検索では、画像形式の文書にメモを追加したり、そのメモを隣のペインで確認したりすることができます。タグを追加したり、関連する請求項をメモしたり、メモにハイライトを付けたり、すべての文書メモを印刷したりすることもできます。
(訳2-2・3-2) 特許公開検索では、画像形式の文書にメモを追加したり、そのメモを隣のペインで確認したりすることができます。また、タグを追加したり、関連する請求項をメモしたり、メモにハイライトを付けたり、すべての文書メモを印刷したりすることもできます。
小見出しの翻訳
原文では次に小見出しがあります。
この小見出しは短いので、名詞的に翻訳しても読みにくくなりません。
(原文4) Add Notes
(訳4) メモの追加
箇条書き1の翻訳 (1文目)
小見出しの後に箇条書きが続いています。番号1の箇条書きは2文に分かれています。1文目から翻訳していきます。
まず英文の構造を分析します。
Add Noteはメニューにある項目の名称であり、これでひとかたまりです。原典では太字で書かれ、どこからどこまでが固有の名称かが分かりやすくなっています。
このAdd Noteは画面に表示される語句ですが、ユーザ インタフェース (UI) に表示されるこのような語句は、実際の画面表示に合わせて翻訳する必要があります。つまり、実際の画面で翻訳されていればその訳をそのまま使用し、実際の画面が翻訳されていなければ原語をそのまま記述します。ただし、画面が翻訳されていない場合でも、原語のままでは意味が分かりにくいため、原語表記に訳を併記する場合もあります。
- 画面が翻訳されている場合
例えば、実際の画面に「メモの追加」と表示されるなら、マニュアルでも「メモの追加」と翻訳します。勝手に他の訳をあてると、読者が実際の画面で操作するときに、どこを操作したらよいか分からなくなってしまいます。
- 画面が翻訳されておらず、マニュアルでも翻訳しない場合
原語のまま「Add Note」と表記します。
- 画面が翻訳されておらず、マニュアルで訳を併記する場合
例えば「Add Note (メモの追加)」と表記します。 このとき、UIの訳がクライアントから指定されていれば、その訳を使用します。 翻訳者が訳をあてることになっている場合は、独自に翻訳します。
この課題では、画面が日本語化されていないと想定し、UIは英語のまま転記することにします。
right-clickは自動詞です。原文の形だけを見ると、right-clickを他動詞として [right-click and select] Add Note from the expanded menu; とする解釈もありそうですが、 Add Noteはexpanded menuから選択すると述べています。つまり、 [right-click and select] Add Note from the expanded menu; と解釈すると、right-clickする時点で既にmenuがexpandされていることになります。右クリックしてメニューを開くのは一般的な操作ですから、その操作の流れから考えると、right-clickする時点ではまだmenuがexpandされていないと考えるのが自然です。 つまりright-clickは自動詞です。正しい解釈は、 right-click / and select Add Note from the expanded menu; です。以上の分析をまとめると、原文5の構造は以下のようになっています。
原文の構造が分析できたら、それぞれの部分を翻訳してつなぎます。
原文5は命令文で構成されています。 命令文による手順書きですから、命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。 ただし、最後の文 (see ...) は読者に注意を促していることから「……します」より「……してください」が適しています。
(原文5) 1. In the Document Viewer Image view, right-click and select Add Note from the expanded menu; see Figure 1.
(訳5-1) 1. Document ViewerのImage表示で右クリックし、展開されたメニューからAdd Noteを選択します。図1を参照してください。
原則に忠実な訳文が完成しました。
これで正しい訳文になっていますが、最後の文 (see ...) がごく短い文なので、「……してください」と翻訳すると長ったらしく感じる人もいるかもしれません。 もっと簡潔に書くこともできます。
さらに簡潔に書くこともできます。
最後の文 (see ...) では要するに読者に図1を見てほしいのですから、その目的さえ達成されればよいわけです。
これで原文5の翻訳が完了しました。
箇条書き1の翻訳 (2文目)
次の文に進みます。
この文では、前の文で読者に促した操作の結果について説明しています。see ...については、前の文と同じ要領で翻訳します。
(訳6-1) Add Noteウィンドウが開きます。図2を参照してください。
(訳6-2) Add Noteウィンドウが開きます (図2を参照)。
(訳6-3) Add Noteウィンドウが開きます (図2)。
箇条書き2の翻訳
次の文は箇条書きの2番目の項目です。この文も命令文です。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。
(原文7) 2. Enter text in the Note Text field.
(訳7) 2. Note Textフィールドにテキストを入力します。
箇条書き3の翻訳
次の文は箇条書きの3番目の項目です。
(原文8) 3. Select a particular highlight color or No Color from Styling Options.
この文も命令文です。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。
highlightは強調することですから、highlight colorは注釈を強調するための色ということです。ここでは、書類に付ける注釈の目印とすることと、蛍光マーカーなどで色を付ける意味にもhighlightという単語が使われることから、「マーカー」という訳語を採用します。
(訳8-1) 3. Styling Optionsから特定のマーカーの色またはNo Colorを選択します。
UIは英語のままという方針で翻訳しているため、訳8-1ではNo Colorも英字のまま転記しています。英語が分かる人であれば、No Colorと聞いて「色を付けないんだな」と分かりますが、読者がNo Colorの意味を理解できないと、No Colorを選択した場合の効果が読者に伝わりません。 翻訳する以上は、英語を理解できない読者にも意味が伝わる訳文を書く必要があります。 No Colorの意味を明確に伝え、a particular highlight colorと対比するために、No Colorの意味をかっこ書きで併記することにします。
(訳8-2) 3. Styling Optionsから特定のマーカーの色またはNo Color (色なし) を選択します。
これで逐語訳が完成しました。意味は分かりますが、「特定の」が煩わしく感じます。
この「特定の」は、原文のa particularに対応する訳語です。 原文のa particular highlight colorは何とも英語らしい表現です。いくつもある色の中から「この色」と決めて選び出すわけですが、英語ではこういうときにいちいちparticularが付くのですね。しかし日本語では、多くの色の中から1色を選び出す場合でも、それが特定の色であるとか具体的な色であるとかを特に意識しません。particularは訳文から省略することにします。
(訳8-3) 3. Styling Optionsからマーカーの色またはNo Color (色なし) を選択します。
箇条書き4の翻訳
次の文は箇条書きの4番目の項目です。この文も命令文です。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。 接続詞ifも使用されています。ifの翻訳の原則に従って「場合」と翻訳します。
(原文9) 4. Enter related claims if necessary.
(原文10) Continued...
(訳9) 4. 必要な場合は、関連する請求項を入力します。
(訳10) 続く...
英文原典では、この位置で改ページしています。このマニュアルでは、丁寧にContinued...と記載しています。
小見出しの翻訳
次に小見出しがあります。原典では、改ページした後の先頭にこの小見出しが置かれています。 この小見出しは、この手順書きの冒頭にある小見出しの再掲です。その小見出しと同じ訳に揃えておく必要があります。
(原文11) Add Notes (continued)
(訳11) メモの追加 (続き)
箇条書き5の翻訳
次の文は箇条書きの5番目の項目です。この文も命令文です。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。
see ...については、箇条書き1の翻訳と同じ要領で翻訳します。
(原文12) 5. Click the Add button; see Figure 2.
(訳12-1) 5. Addボタンをクリックします。図2を参照してください。
(訳12-2) 5. Addボタンをクリックします (図2を参照)。
(訳12-3) 5. Addボタンをクリックします (図2)。
続く箇条書きの翻訳 (1)
箇条書き5の下に、さらに箇条書きが並んでいます。最初の項目は、Addボタンを押した結果の説明です。
(原文13) A note marker, a colored circle in the Document Viewer, will appear when a note has been added; see Figure 3.
まず英文の構造を分析します。
- 主語a note markerの後に挿入句が入り、note markerが何であるかを説明しています。markerはメモの目印ですが、highlight colorのところで「マーカー」と翻訳したものに相当します。同じものを指すので同じ訳語を採用し、「マーカー」と翻訳します。
- 助動詞willが付いています。Addボタンを押したときの必然的な結果を表しますが、明示的に日本語に訳出する必要はありません。
- 後にwhen ...が続いています。ここでは条件を表すのではなく、時を表しています。Addボタンを押した結果としてa note has been addedされると、という意味を訳文に反映させます。
- セミコロンでいったん意味が切れ、see ...と補足しています。see ...については、箇条書き1の翻訳と同じ要領で翻訳します。
(訳13-1) メモが追加されると、メモのマーカー (Document Viewerの中の色付きの円) が表示されます (図3)。
訳文が出来上がりました。翻訳臭が残っていますが、誤訳ではありません。翻訳初心者の場合は、この水準の訳文を毎回確実に作れれば合格です。
やや高度な議論
ここからはやや高度な翻訳技術について説明します。初心者は次の項目まで読み飛ばして構いません。
訳13-1は翻訳臭を強く感じますが、その原因は、挿入句a colored circle in the Document Viewerを名詞句のまま訳出していることです。原文では確かに [A note marker] will appear ↑ [a colored circle] ← [in the Document Viewer] という構造をしているのですが、日本語では名詞 (体言) の修飾を多用せず、用言を修飾する傾向があります。colored circle、つまりnote markerがDocument Viewerの中にappearするわけですから、英文でもin the Document Viewerが動詞を修飾する形 [A note marker] will appear ↑ ↑ [a colored circle] [in the Document Viewer] に読み替えて A note marker, a colored circle, will appear in the Document Viewer when ... と考えてもよいわけです。
この考え方に基づいて翻訳すると、訳文は以下のようになります。
こちらの方が読みやすいでしょう。
続く箇条書きの翻訳 (2)
さらに箇条書きが続いています。
(原文14) Select View Notes from this document from the expanded right-click menu to open the Notes Viewer gadget and see all notes in a list form.
まず英文の構造を分析します。
- 動詞selectで始まっています。命令文です。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。
- 後に続くto open ... and see ...はto不定詞です。このto不定詞は、selectした結果を表しています。結果を表すto不定詞の訳し方に従い、(1) toの位置で2文に切り、(2) 英語の語順どおりに翻訳します (訳し下ろします)。
構造が分析できたら、翻訳に取りかかります。to不定詞が出てきたので、まずtoの位置で2文に切ります。
次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。
まず前半を翻訳していきます。
(原文14-1) Select View Notes from this document from the expanded right-click menu
(訳14-1-1) (?) 展開された右クリック メニューからView Notes from this documentを選択します
expandedを受け身として「展開された」と翻訳すると、既に展開されている印象を受けます。この文より前の操作で右クリックしてメニューを展開したわけではないので、既にメニューが展開されているという前提の訳文は不適切です。
(訳14-1-2) 展開した右クリック メニューからView Notes from this documentを選択します
次に後半を翻訳します。
(原文14-2) open the Notes Viewer gadget and see all notes in a list form
(訳14-2-1) Notes Viewerガジェットを開き、すべてのメモをリスト形式で表示します最後に、それぞれの訳文を結合します。
(訳14-3-1) 展開した右クリック メニューからView Notes from this documentを選択して、Notes Viewerガジェットを開き、すべてのメモをリスト形式で表示します。
翻訳初心者は、まずこの水準の訳文を確実に作れるようになりましょう。この訳文にも改善の余地があります。改善の考え方はやや高度になるので、後で解説します。
やや高度な議論 (前半部)
ここからはやや高度な翻訳技術について説明します。初心者は次の項目まで読み飛ばして構いません。
先ほどは前半部分を以下のように翻訳しました。
(原文14-1) Select View Notes from this document from the expanded right-click menu
(訳14-1-2) 展開した右クリック メニューからView Notes from this documentを選択します
訳14-1-2では「展開した右クリック メニューから」と文を始めていますが、何の操作もしていないのに、いきなり「展開した」と切り出すのは唐突です。この前にユーザがメニューを展開する操作があるはずです。
ここが英語と日本語の違いです。この1つ前の箇条書きで挿入句a colored circle in the Document Viewerを翻訳しましたが、そのときに、 日本語では名詞 (体言) の修飾を多用せず、用言を修飾する傾向がある と説明しました。ここでもその考え方を応用します。
今翻訳しているexpanded right-click menuではexpandedがright-click menuを修飾していますが、
expanded → [right-click menu]
この関係は
[right-click menu] is expanded
と考えることもできます。受動態の翻訳方法に従えば「右クリック メニューを展開する」と翻訳できます。つまり、
(訳14-1-2) 展開した右クリック メニューからView Notes from this documentを選択します →(訳14-1-3) 右クリック メニューを展開してView Notes from this documentを選択します
やや高度な議論 (後半部)
もう1つ、後半部分は以下のように翻訳しました。
(原文14-2) open the Notes Viewer gadget and see all notes in a list form
(訳14-2-1) Notes Viewerガジェットを開き、すべてのメモをリスト形式で表示します他動詞openやseeが使われており、主語は (命令文ですから) 暗黙のyouですから、原文の構造をそのまま反映させれば、このような訳文になります。
しかし、後半ではselectした結果について説明していることに注意する必要があります。英文で主語がyouになっていても、日本語では、自身から離れたところで何かが起こるという表現にすると自然な訳文になります。
最後に、それぞれの訳文を結合します。ユーザの意思としては最終的にメモを確認したいのであり、ガジェットやメモの表示はその手段に過ぎません。結果の表現としては、前半と後半の訳文を「……すると」で結合するのがぴったりです。
(訳14-3-2) 右クリック メニューを展開してView Notes from this documentを選択すると、Notes Viewerガジェットが開き、すべてのメモがリスト形式で表示されます。
こちらの方が自然な訳文です。当初の訳14-3-1と比較してみてください。
(訳14-3-1) 展開した右クリック メニューからView Notes from this documentを選択して、Notes Viewerガジェットを開き、すべてのメモをリスト形式で表示します。
続く箇条書きの翻訳 (3)
もう1つ箇条書きが続いています。
(原文15) To delete a note, right-click the note marker and select Remove Note from the expanded menu.
まず英文の構造を分析します。
- to不定詞で始まっています。文頭のto不定詞です。目的を表しています。原則に従って「……するには」と翻訳します。
- 次は動詞right-clickで始まっています。命令文です。その後に、andを挟んで さらに命令文 (select ...) が続いています。命令文の翻訳の原則に従って「……します」と翻訳します。
構造が分析できたら、翻訳に取りかかります。 前半のto不定詞と後半の命令文をそれぞれ翻訳してつなぎます。
図のキャプションの翻訳
図にキャプションが付いているので、翻訳します。
(原文16) Figure 1. Right-click menu
(訳16) 図1. 右クリック メニュー
(原文17) Figure 2. Add note window
(訳17) 図2. Add noteウィンドウ
(原文18) Figure 3. Document with note marker
(訳18) 図3. メモのマーカーが付いた文書
完成した訳文
以上で翻訳が完了しました。完成した訳文は以下のとおりです。
今回翻訳したのは手順書きであり、複雑な構文は出てきませんが、基本に従って1つ1つ確実に訳文を作っていく必要があります。
特許公開検索 - 画像にメモを追加する
特許公開検索では、画像形式の文書にメモを追加したり、そのメモを隣のペインで確認したりすることができます。タグを追加したり、関連する請求項をメモしたり、メモにハイライトを付けたり、すべての文書メモを印刷したりすることもできます。
メモの追加
1. Document ViewerのImage表示で右クリックし、展開されたメニューからAdd Noteを選択します (図1)。
Add Noteウィンドウが開きます (図2)。
2. Note Textフィールドにテキストを入力します。
3. Styling Optionsからマーカーの色またはNo Color (色なし) を選択します。
4. 必要な場合は、関連する請求項を入力します。
続く...
メモの追加 (続き)
5. Addボタンをクリックします (図2)。
・メモが追加されると、Document Viewerにメモのマーカー (色付きの円) が表示されます (図3)。
・右クリック メニューを展開してView Notes from this documentを選択すると、Notes Viewerガジェットが開き、すべてのメモがリスト形式で表示されます。
・メモを削除するには、メモのマーカーを右クリックし、展開されたメニューからRemove Noteを選択します。
図1. 右クリック メニュー
図2. Add noteウィンドウ
図3. メモのマーカーが付いた文書