助動詞はさまざまなニュアンスを帯びます。慣れないうちは難しく感じますが、まずは技術翻訳でよく使われる用法だけ押さえておきましょう。
can
- ……できる
- ……する場合 (可能性) がある
- ……する場合 (可能性) がある
- ……できる
- ……しなければならない (する必要がある)
- ……するものとする
- 翻訳しない
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canには主に以下の2つの用法があります。
- 可能 (できる)・不可能 (できない) を表す
- ある状況に至る可能性を表す
以下のcanは可能 (できる) か不可能 (できない) かを述べています。 可能 (できる)・不可能 (できない) を表すには、mayよりもcanが多く使用されます。
マウスを使用することによってファイルを選択することができます。
(※ youの訳し方については「youの翻訳」を参照してください。)
変数名を数字で始めることはできません。
以下のcanは可能性について述べています。この用法ではmayが使用されることが多いのですが、canが使用される場合もあります。
この問題によってシステムのパフォーマンスが低下する場合があります。
この問題によってシステムのパフォーマンスが低下する可能性があります。
may
mayにもcanに似た用法があります。
- 可能 (できる)・不可能 (できない) を表す
- ある状況に至る可能性を表す
ただし、mayの場合は後者の意味で使用されるケースが多く見られます。
(×) プロセスが完了したかどうか知る必要があるかもしれません。
(○) プロセスが完了したかどうか知る必要がある場合があります。
(○) プロセスが完了したかどうか知る必要があることがあります。
「……かもしれません」という表現は技術文書では使用しません。
canより少ないのですが、mayによって可能 (できる) か不可能 (できない) かを表す場合もあります。
テンプレート引き数は以下のいずれかにすることができます。
(※ コロンの処理方法については「コロンの処理」を参照してください。)
must
mustの主な用法は以下のとおりです。
- 義務 (……しなければならない) を表す
- 当然の推定 (……のはず) を表す
例を示します。
(○) ラベルにはユニークな識別子を使用しなければなりません。
(○) ラベルにはユニークな識別子を使用する必要があります。
マクロ名と左かっこの間に空白文字があってはなりません。
mustが当然の推定 (……のはず) を表す場合には注意して翻訳しなければなりません。
(×) 必要なフィールドを選択して [Next] ボタンをクリックします。選択したフィールドが [Source] ウィンドウに表示されるはずです。
ユーザが操作した後、画面に適切なデータが表示されていることを確認して欲しい、という気持ちは分かりますが、通常、技術文書では「……はず」という表現を使用しません。
例えば、ユーザ インタフェースを開発していて、クリックすると [Source] ウィンドウが表示されるはずだ、という文脈でも「……しなければなりません」と翻訳します。
必然的な結果をshouldで表す場合もあります。あえて訳出する必要がないことも少なくありません。
必要なフィールドを選択して [Next] ボタンをクリックします。選択したフィールドが [Source] ウィンドウに表示されます。
should
多くの場合、shouldはmustと同じ意味で使用されます。
(×) すべてのプログラマはスタック フレームの構造を理解しているべきです。
(○) すべてのプログラマはスタック フレームの構造を理解していなければなりません。
(○) すべてのプログラマはスタック フレームの構造を理解している必要があります。
「……べき」という表現には無責任なニュアンスがあるので、「……しなければならない」と翻訳してください。
shall
shallには「法的義務」と呼ばれる用法があります。 この用法は法律や契約書の条文で使用されることが多く、「……するものとする」と翻訳します。 法律や契約書で使用される用語には法解釈と結び付いた特定の意味があるので、別の訳語を使用すると、原文の意味が正確に伝わりません。
(○) これらの条件は以下の製品に適用されるものとします。
(○) これらの条件は以下の製品に適用するものとします。
技術文書でも、製品の著作権や使用条件に関する記述などで使用されます。
will
willは物事の傾向や必然的な結果を表すことがありますが、ほとんどの場合、willを訳出する必要はありません。
(×) 先頭の数行が [Preview] ウィンドウに表示されるでしょう。
(○) 先頭の数行が [Preview] ウィンドウに表示されます。
「……だろう」「……でしょう」という表現は技術文書では使用しません。