日本語の語順とテン

キーポイント
  • 関連する語句は近くに置く。
  • 長い語句は前に、短い語句は後ろに置く。
  • テンは以下のように打つ
    • 列挙する語句の間に打つ
    • 文を接続する連用形の後に打つ
    • 密接に関連する語句の間には打たない
    • 直後の名詞を修飾する連体修飾の後には打たない
    • 意図しない結び付きを避けるために打つ。ただし語順の調整を優先する

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この章では、「日本語の作文技術」(本多勝一 著、朝日文庫) で整理された語順と読点に関する原則を下敷きとして、翻訳初心者向けに実践に落とし込んで説明しています。同書では、語順と読点 (、) の打ち方について、筋道立てて詳しく解説しています。 さらに深く勉強したい場合は、同書を参照してください。

語順

日本語では、英語よりはるかに自由に語順を決めることができます。 しかし、語順に注意しないと訳文が分かりにくくなってしまいます。

キーポイント
  • 関連する語句は近くに置く。
  • 長い語句は前に、短い語句は後ろに置く。

例を示します。

The GetColNum function stores the number of columns to the colnum element of the screeninfo structure passed as the second parameter.
(?) GetColNum関数は、列の数を第2パラメータとして渡されたscreeninfo構造体のcolnum要素に格納します。

原文の修飾関係は以下のとおりです。

The GetColNum function stores ↓ ↓ the number of columns ↓ ↓ to the colnum element ... passed as the second parameter

つまり、列の数をcolnum要素に格納するのですが、 訳文では「列の数を」と「格納します」が遠く離れているため、列の数を格納することが分かりにくくなっています。

訳文では修飾関係が以下のようになっています。

GetColNum関数は ↓ ↓ 列の数を ↓ ↓ ↓ ↓ 第2パラメータとして……colnum要素に ↓ ↓ ↓ 格納します

つまり、短い語句「列の数を」と長い語句「第2パラメータとして……colnum要素に」がともに「格納します」にかかっています。

英語では、一般に後の語句が前の語句を次々に修飾していきます。

the colnum element ← of the screeninfo structure ← passed ← as the second parameter

この性質があるため、英語の場合は短い語句を前に置くと文が分かりやすくなります。

これに対し、日本語の場合は、一般に前の語句が後の語句を次々に修飾していきます。

第2パラメータとして → 渡された → screeninfo構造体の → colnum要素

この性質があるため、日本語では長い語句を前に置くと文が分かりやすくなります。

先ほどの訳例では、短い語句「列の数を」が長い語句「第2パラメータとして……colnum要素に」の前に置かれていました。語句は、遠く離れれば離れるほど結び付きが弱くなります。この訳例では、「列の数を」は「格納します」よりも「第2パラメータとして」「渡された」「screeninfo構造体のcolnum要素」に結び付きやすくなります。しかし、本来結び付くべき相手は「格納します」です。「列の数を」と「格納します」の結び付きを強くするには、これらが近くなるように語順を変えます。

GetColNum関数は、第2パラメータとして渡されたscreeninfo構造体のcolnum要素に列の数を格納します。

別の例を見てみましょう。

GetColNum関数は、列の最大数を渡された要素に格納します。

この訳文の修飾関係は以下のとおりです。

GetColNum関数は ↓ ↓ 列の最大数を ↓ ↓ ↓ ↓ 渡された要素に ↓ ↓ ↓ 格納します

「列の最大数を」と「渡された要素に」はいずれも同じ程度の長さです。 長さが同じ程度なので語順は自由、といいたいところですが、「列の最大数を渡された → 要素に」とも読めてしまいます。「……を」と動詞「渡された」が結び付きやすいのです。このような、意図しない結び付きを解消する場合にも語順の変更が有効です。

GetColNum関数は、渡された要素に列の最大数を格納します。

「渡された要素に → 列」という解釈は文法的に成立しないので、意味を誤解されることがありません。

テン (、) の打ち方

日本語の「句読点」は、文字どおり句点 (。) と読点 (、) を指します。これ以降、 句点をマル、読点をテンと呼ぶことにします。

日本語の句読記号は原則として句点と読点の2種類であり、他にかっこ類も使用します。コロンやセミコロン、ダッシュは使用しません。さまざまな句読記号を使い分ける英語とは対照的です。日本語では、この少ない種類の句読点で読みやすい文を書く必要があります。

注: 横書きの場合にテン (、) とマル (。) の代わりにコンマとピリオドを使うこともあります。しかし、テンかコンマかの違いは表記のバリエーションに過ぎないため、本講座ではテンとマルを使用して考えていきます。

日本語のテン (、) には以下の働きがあります。

  • 文を切る
  • その副次的結果として、切らなかった箇所の結び付きを強くする

テンは、必要な箇所に必要最小限に打たなければなりません。 テンを打つのを必要最小限にとどめないと、本当に切るべき箇所があいまいになってしまい、意味の切れ目が分かりにくくなってしまいます。 つまりオオカミ少年と同じことで、正しい区切りでない位置で「ここで切れるぞ」「ここで切れるぞ」と言い続けると、区切りとして機能しなくなってしまうのです。

(×) これは、テンの、悪い打ち方の、例として示した、文であり、テンを、適切に、打たないと、本当の文の、切れ目が、分からなくなり、文章が、理解しにくくなることを、示しています。

かといって、テンをまったく打たない文も読みにくいものです。

(×) これはテンの悪い打ち方の例として示した文でありテンを適切に打たないと本当の文の切れ目が分からなくなり文章が理解しにくくなることを示しています。

テンの打ち方の原則は以下のとおりです。

キーポイント

テンは以下のように打つ
  • 列挙する語句の間に打つ
  • 文を接続する連用形の後に打つ
  • 密接に関連する語句の間には打たない
  • 直後の名詞を修飾する連体修飾の後には打たない
  • 意図しない結び付きを避けるために打つ。ただし語順の調整を優先する
テンを適切に打たないと文が分かりにくくなる

列挙する語句の間に打つ

いくつかの語句を列挙する場合は、テンで区切ります。

変数名には英字数字および下線を使用することができます。

文を接続する連用形の後に打つ

文と文を連用形で接続する場合には、その間にテンを打ちます。

(×) 新規ユーザを作成しその名前を [User Name] フィールドに入力します。
新規ユーザを作成しその名前を [User Name] フィールドに入力します。

密接に関連する語句の間には打たない

以下の文では、「ファイルを」と「作成します」の間にテンを打っています。

(×) [File] メニューから [New...] を選択して新しい文書ファイルを作成します。
しかし、そこにテンを打った (つまり「ファイルを」と「作成します」を切った) 結果として、以下のように「[File] メニューから……ファイルを」がひとまとまりになってしまいます。

  1. [File] メニューから [New...] を選択して新しい文書ファイルを
  2. 作成します。

しかし、この文の意味を考えると、この文は以下の2つの内容から構成されていると考えるべきです。

  1. [File] メニューから [New...] を選択して
  2. 新しい文書ファイルを作成します

つまり、「ファイルを」と「作成します」は密接に関連しているのでこの間をテンで切ってはなりません。 正しくテンを打つと以下のようになります。

[File] メニューから [New...] を選択して新しい文書ファイルを作成します。

実は、「選択して」の後のテンは必ずしも必要ではありません。 「……して」という言葉は2つの文をつなぐ働きを持っています。別の見方をすれば、「……して」という言葉は2つの文の切れ目を示します。 このため、文が短い場合は必ずしも「……して」の後にテンを打つ必要はありません。

[File] メニューから [New...] を選択して新しい文書ファイルを作成します。

直後の名詞を修飾する連体修飾の後には打たない

既に説明したように、密接に関連する語句の間にはテンを打ちません。特に、連体修飾とその直後の被修飾語の間にはテンを打ちません。

(×) 手順3でユーザ ディレクトリに作成したファイルが [Source Files] ウィンドウに一覧表示されます。

この例では [手順3でユーザ ディレクトリに作成した] → ファイル という修飾関係になっています。この修飾節「……に作成した」と被修飾語「ファイル」は密接に関連しているので、その間にテンを打ってはなりません。密接に関連する語句の間にテンを打つと、それらの語句が切れるので、意味のつながりが薄いと示すことになってしまいます。

(○) 手順3でユーザ ディレクトリに作成したファイルが [Source Files] ウィンドウに一覧表示されます。

連体修飾とその直後の被修飾語の間にテンを打つ表記は1990年代中ごろに流行しました。 2010年代に入ると、連体修飾の直後にテンを打つ表記は下火になりました。

これに対し、直後の名詞を修飾しない連体修飾の後にはテンを打ちます。以下の例では、「……指定された」が「……幅を示す値」を修飾しています。

このステートメントは、第2パラメータのscreeninfo構造体によって指定されたレポート画面の列数およびタブの幅を示す値を取得します。

文の修飾関係は以下のとおりです。

  1. 第2パラメータのscreeninfo構造体によって指定された
  2. レポート画面の列数およびタブの幅を示す

この文の修飾関係を図示すると以下のようになります。

このステートメントは ↓ ↓ 第2パラメータのscreeninfo構造体によって指定された ↓ ↓ ↓ ↓ レポート画面の列数およびタブの幅を示す ↓ ↓ ↓ ↓ 値を ↓ ↓ 取得します。

近くにある言葉は結び付きが強くなるので、「指定された」の後にテンを打たないと「指定された」と「レポート画面」が結び付き、文の修飾関係が以下のようになってしまいます。

このステートメントは ↓ ↓ 第2パラメータのscreeninfo構造体によって指定された ↓ ↓ ↓ レポート画面の ↓ ↓ ↓ 列数およびタブの幅を示す ↓ ↓ ↓ 値を ↓ ↓ 取得します。

元の意味では「指定された」と「レポート画面」が結び付いていないので、「指定された」と「レポート画面」の間にテンを打ち、結び付きを切っておく必要があります。 これは、テンの打ち方として最後に示した原則「意図しない結び付きを避けるために打つ」例です。

語順の変更とテン

語順の変更について説明したときに、以下の文を例にとりました。

GetColNum関数は、列の最大数を渡された要素に格納します。

この例文では「列の最大数を渡された → 要素に」と結び付きやすくなっています。先ほどは語順を変えてこの問題を解決しましたが、テンを打つことによって意図しない結び付きを回避できるのであれば、この例文にある問題も解決できるはずです。

(?) GetColNum関数は、列の最大数を渡された要素に格納します。

しかし、テンの数が増えて目ざわりです。できるだけ語順の調整で解決してテンは最小限に抑え、どうしても語順の変更だけでは解決できない場合に限ってテンを打つようにしてください。

テンの打ち方の検討

ここでは、上記のテンの打ち方を実際の文に適用してみます。先ほど例示した文に適切にテンを打ってみます。

(×) これはテンの悪い打ち方の例として示した文でありテンを適切に打たないと本当の文の切れ目が分からなくなり文章が理解しにくくなることを示しています。
この文は以下の要素から構成されています。

  1. これはテンの悪い打ち方の例として示した文であり
  2. テンを適切に打たないと
  3. 本当の文の切れ目が分からなくなり
  4. 文章が理解しにくくなることを示しています。

テンを原則どおりに打っていきます。

最初の原則として 列挙する語句の間にテンを打つこととなっていますが、該当する列挙はありません。 次に、文を接続する連用形の後にテンを打ちます。 最初の要素と3番目の要素が該当します。

  1. これはテンの悪い打ち方の例として示した文であり
  2. テンを適切に打たないと
  3. 本当の文の切れ目が分からなくなり
  4. 文章が理解しにくくなることを示しています。

打ってはならない余分なテンはないので、このまま文をつなぎます。

これはテンの悪い打ち方の例として示した文でありテンを適切に打たないと本当の文の切れ目が分からなくなり文章が理解しにくくなることを示しています。

意図しない結び付きはないので、さらにテンを加える必要はありません。 以上で、必要最小限のテンだけを打った状態になりました。

2番目の要素と3番目の要素の間にテンを打ちたいという人もいるでしょう。

  1. これはテンの悪い打ち方の例として示した文であり
  2. テンを適切に打たないと
  3. 本当の文の切れ目が分からなくなり
  4. 文章が理解しにくくなることを示しています。
これはテンの悪い打ち方の例として示した文でありテンを適切に打たないと本当の文の切れ目が分からなくなり文章が理解しにくくなることを示しています。

しかし、以下の理由から、2番目の要素と3番目の要素の間にテンを打つ必要はありません。

  • 上記4つの要素のうち、2番目の要素と3番目の要素は他の要素より密接に結び付く
  • 「……と」という言葉が2つの文の切れ目を示す (「……して」に似ています)

ここにテンを打つと、間延びした文章になってしまいます。改めて比較してみてください。

(◎) これはテンの悪い打ち方の例として示した文であり、テンを適切に打たないと本当の文の切れ目が分からなくなり、文章が理解しにくくなることを示しています。
(△) これはテンの悪い打ち方の例として示した文であり、テンを適切に打たないと、本当の文の切れ目が分からなくなり、文章が理解しにくくなることを示しています。

テンの打ち方の検討 (続)

以下の文は、あるお菓子のパッケージに記載されていた注意書きです (大変おいしいお菓子だったので悪文の例として引用するのは申し訳ないのですが)。テンの打ち方が不適切なので、訂正してください。

チョコレートは高温になると、その油脂分が溶け出しそれが冷えて固まると白くなることがあります。風味は劣りますが、召しあがっても身体にさしさわりありません。

まず自力で訂正してみてください。訂正できたら、こちらの解答と解説を確認しましょう。

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