因果関係 (……が原因で……になる) の表現も技術文書に頻出します。ここでは、因果関係の表現を、結果の表現方法に焦点を当てて説明します。
ここでも、名詞中心の構文を動詞中心に読みほどく技術が活躍します。
- S1 cause S2 to V2
→ S1 によって S2 が V2 する - S1 cause S2 to be V2-ed
→ S1 によって S2 が V2 される - S cause something
→ S によって something が発生する/になる - S cause action
→ S によって action する - action cause ...
→ action すると…… - S result in something
S lead to something
→ S によって something が発生する/が得られる/になる
この章の目次
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to不定詞によって結果を表現することができます。 詳細については「結果を表すto不定詞の訳し方」を参照してください。
分詞構文
分詞構文によって結果を表現することができます。 詳細については、分詞構文の訳し下ろしを参照してください。
so that
so that節によって結果を表現することができます。 詳細については「so that節の翻訳」を参照してください。
cause
技術文書で頻繁に使用される結果表現として、以下の構文があります。
この構文は以下のように翻訳します。
S cause S2 to V2
→ S によって S2 が V2 する
S cause S2 to be V2-ed
→ S によって S2 が V2 される
例を示します。
この文を翻訳する場合は、causesに続く「execution」と「resume at the statement next to the function call」を主語・述語と見なすと考えやすくなります。
このように、causeはallowとよく似た方法で翻訳することができます。allowの翻訳方法と比較してください。
to doの箇所が受動態になる場合もあります。 allowの場合とは異なり、causeの場合は受動態 (……される) のまま翻訳します。
method=POST指定によって、フォーム データが標準入力経由で渡されます。
→(×)
allowの場合は読者の視点と一致することが多いのですが、causeの場合は読者の視点と異なる視点で述べることが多いため、受動態 (……される) のままにしておく方が適切です。もちろん、読者の視点と一致する場合は、受動態を能動として翻訳します。
causeの後に主語・述語が置かれる場合のほかに、名詞が置かれる場合もあります。 ただし、causeの語感のせいでsomethingには悪いイメージの語句 (error、problem、trouble、system terminationなど) が来ることが多いようです。
S cause something
→ S によって something が発生する/になる
S cause action
→ S によって action する
以下の文では、causeの後に主語・述語の構造を置かずに、名詞 (名詞節)「a lot of overhead」だけを置いています。
この文は、上記の原則に従って翻訳します。
この例のように、causeの後に来る名詞が必ずしも動作を表すと限らない点がallowの場合と異なります。
もちろん、causeの後に動作を表す名詞が来る場合もあります。その場合は、allowを翻訳するときと同様に名詞中心の表現から動詞中心の表現に書き換えます。
この種のエラーによってシステム停止が発生します。
→ この種のエラーによってシステムが停止します。
causeの主語が動作を表す場合もあります。その場合も、allowと同じ要領で翻訳します。名詞中心の表現を動詞中心の表現に書き換える方法については以下の節を参照してください。
action cause ...
→ action すると……
つまり
action cause S to V
→ action すると S が V する
action cause S to be V-ed
→ action すると S が V される
action cause something
→ action すると something が発生する/になる
action1 cause action2
→ action1 すると action2 する
例として以下の文を翻訳してみます。 この文では、主語が動名詞 (clicking ...) になっています。
Clicking the OK buttonが動名詞なので、名詞的に翻訳すると「[OK] ボタンのクリック」になります。この訳を翻訳の原則に当てはめて翻訳してみましょう。
翻訳の原則は以下のとおりです。
→ S1 によって S2 が V2 される
この原則の主語S1に「[OK] ボタンのクリック」を当てはめると、以下のような訳文になります。
「[OK] ボタンのクリックによって」という表現は翻訳臭が強いので、名詞中心の表現を動詞中心の表現に書き換えます。
→ [OK] ボタンをクリックする
最終的な訳文は以下のようになります。
もうひとつ例を示します。
causeを翻訳するときの原則
S1 cause S2 to be V2-ed
→ S1 によって S2 が V2 される
に従って翻訳すると、以下のような訳文になります。
アスタリスクが後に続くパーセント記号によって、フィールドの長さが次の変数から読み込まれます。
この訳文においても、名詞中心の表現を動詞中心の表現に書き換えることができます。
主語の部分 a percent symbol followed by an asterisk が名詞中心の表現ですから、この部分だけを取り出して検討していきます。
この名詞句において、それぞれの要素
a percent symbol
followed
by an asterisk
の関係は、以下の英文における各要素の関係と同じです。
A percent symbol is followed by an asterisk.
つまり、この文と同じように翻訳すれば、名詞中心の表現を動詞中心に読みほどくことができます。
(名詞中心の訳) アスタリスクが後に続くパーセント記号
(動詞中心の訳) パーセント記号の後にアスタリスクが続く
この動詞中心の訳を主語の部分に組み込むと、最終的な訳文が完成します。
→パーセント記号の後にアスタリスクが続く場合は、フィールドの長さが次の変数から読み込まれます。
この訳文では「パーセント記号の後にアスタリスクが続く」と書いていますが、 このように書くと、既にそのような状態になっているニュアンスが出ます。 文脈によっては、誰か (例えば人間) が意図的にアスタリスクを記述することもあります。そのような文脈では、意図を明示して以下のように翻訳すると適切です。
result in、lead to
causeのほかに、result inやlead toによって結果を表す場合もあります。
S result in something
S lead to something
→ S によって something が発生する/が得られる/になる
注: S result in (lead to) something to do の構文はない
上記の構文も、causeと同じ考え方で翻訳することができます。 例を示します (lead toも同様の考え方で翻訳できるので、以下ではresult inを例にとって説明します)。
他のオプションによって構文エラーが発生します。
→ 他のオプションの場合は構文エラーが発生します。
エラーによって負のリターン コードが得られます。
→エラーの場合は負のリターン コードが返されます。
causeの場合と同様に、主語や目的語に動作を表す名詞が来る場合もあります。
空白のみで構成される文字列からの先頭の空白の削除によって、空文字列が得られます。
→ 空白のみで構成される文字列から先頭の空白を削除すると、空文字列になります。
result inは (×) S result in something to do という構文をとりません。 したがって、以下の構文はありません (誤った英語です) が、 (×) A negative offset results in the cursor to be moved backward. 以下の構文を取ることがあります。 A negative offset results in the cursor being moved backward.
この英文は以下の英文と同様の考えで翻訳することができます。
負のオフセットによって、カーソルが後方に移動します。
修飾語を述語にする技術を応用すると、「負のオフセット」→「オフセットが負である」と書き換えることができるので、訳文は以下のようになります。
→ オフセットが負の場合は、カーソルが後方に移動します。
分かりにくい場合は、a negative offsetをan offset being negativeやan offset is negativeと考えてみてください。
なお、上記の英文 A negative offset results in the cursor being moved backward. は以下の英文と同じ意味です。 A negative offset moves the cursor backward. この方がシンプルであり、causeを使うよりも好まれます。
causeやresult inの翻訳技術の応用
causeと他の構文が組み合わされている場合は、それぞれの翻訳技術を的確に応用しなければなりません。
例1
例として以下の文を翻訳してみます。
いくつか注意しなければならないポイントがあります。
- causeに助動詞mayが付いています。助動詞を訳し忘れないように注意しなければなりません。
- 主語が「Clicking ...」と動作を表しているので、名詞中心の表現を動詞中心に読みほどきます。
- 「to be sent」と受動態になっていますが、causeの場合は受動態 (……される) と訳出します。
以上の点に注意して翻訳すると、以下のような訳文になります。
例2
別の例として、以下の文を翻訳してみます。
この英文では後半がresulting in ...と分詞構文になっています (分詞構文の詳細については、分詞構文の訳し下ろしを参照してください)。 このresulting in ...は結果を表しています。 つまり、「This causes an infinite recursive call」の結果として「resulting in a run-time error」になると述べています。
分詞構文を翻訳するときは、まず2文に切ります。
次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。後半のresulting in ...も結果表現の原則どおりに翻訳します。
「無限の再帰呼び出し」は名詞中心の表現なので、動詞中心に書き換えます。ただし、「再帰呼び出しする」という動詞はないので、「再帰呼び出しを行う」とします。しかし、単に「再帰呼び出しを行う」と書き換えるだけでは済みません。
この訳文では読者が意図的に行っていることになってしまいます。 原文は読者の視点からthis cause ...と述べていますから、読者が意図的にinfinite recursive callを行っているわけではありません。 読者が意図しているわけではないので、訳文は受け身で書きます。
→(○) これによって無限に再帰呼び出しが行われる
これで前半の訳が完成しました。最後に、前半の訳と後半の訳 これによって無限に再帰呼び出しが行われる / ランタイム エラーが発生する をまとめます。 ただし、resulting in ...は結果を表すので、訳文にもそのニュアンスを出さなければなりません。
↓(その結果として)
ランタイム エラーが発生する
この点に注意しながら訳文をまとめると以下のようになります。
初級の段階ではここまで翻訳できれば合格です。
ブラッシュアップ
この訳文をブラッシュアップすることもできます。ここから先はやや高度な議論になるので、初級の段階では参考程度に読み流してください。
最後の訳文のうち、前半部分では語順が 無限に/再帰呼び出しが/行われる となっていますが、何について述べているかを早い段階で明確にすると、訳文が分かりやすくなります。語順を変更して 再帰呼び出しが/無限に/行われる とすると、この文で再帰呼び出しについて述べることが早い段階で明確になり、訳文が分かりやすくなります。語順を入れ替える前と後の訳文を比較してください。
(入替後) これによって再帰呼び出しが無限に行われるため、ランタイム エラーが発生します。
意図していないことを強調するなら、以下のように翻訳することもできます。ただし、ここまで踏み込んで翻訳するかどうかは、対象読者・文脈・語り口などから総合的に判断します。
結果の表現のまとめ
結果 (因果関係) の表現には、SとVが1つだけ含まれる形や、2つ含まれる形、名詞構文を取る形など、いくつかのバリエーションがあります。
S1 V1 to V2
S1 V1 , V2-ing
→ S1 が(は) V1 して V2 する
S1 V1 so that S2 V2
→ S1 が(は) V1 して S2 が(は) V2 する
S1 cause S2 to V2
S1 cause S2 to V2-ed
→ S1 によって S2 が(は) V2 する/される
S cause action
S result in action
→ S によって action する
action cause S to V
→ action すると S が(は) V する
action1 cause action2
action1 result in action2
→ action1 すると action2 する
※ lead toはresult inと同じ構文をとる。