翻訳テクニック集 目次

受け身にするかどうか

これまで、受け身使役の乱用について検討してきました。では、次の文はどうでしょうか。

(文6-1) 最終日に笑顔で見送ってくれた友人の病状がそれほど深刻だとは思っていなかったが、しばらく経って、亡くなったことを知らされた。

「知らされた」は受け身の表現です。

知る + される (受け身) + た (過去)

これまで見てきたように、受け身を使わずに書くことができます。

(文6-2) 最終日に笑顔で見送ってくれた友人の病状がそれほど深刻だとは思っていなかったが、しばらく経って、亡くなったことを知った。

文6-1と文6-2はニュアンスが少し違います。

受け身を使うと、書き手 (話し手) が被害をこうむったニュアンスが加わります。文6-1の場合は、受け身を使うことで、知りたくないことを知ることになったニュアンスを出しています。対照的に文6-2では、知ったという事実を淡々と述べています。

文6-1の受け身 (被害の表現) は受け身本来の使い方 (被害の表現) であり、書き手の感情を効果的に伝えています。受け身はこのような場合に使うのです。

受け身を使うか使わないかは、書き手が意図に応じて決めることです。決して「何となく」決めることではありません。受け身や使役はとかく乱用される傾向があります。数多く見ているうちに感覚が麻痺してしまい、意識しなければ、つい受け身や使役を使ってしまいます。文章を書く場合には特に気をつけなければなりません。

文章を書くときには、まず受け身も使役も使わない簡素な文を書き、その簡素な文を基準として、書き手の意図に応じて表現を工夫してニュアンスの変化を確認し、最終的にどの表現を採用するかを決めるとよいでしょう。ここでもミニマル ライティングの考え方が役立ちます。

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