日本語で乱用される表現には、受け身のほかに使役もあります。
(文1) 現状では現場の作業員が個別に考えて実行しているに過ぎないため、作業員によってコンクリートの強度に大きな差を生じさせているのではないか。
この文に出てくる「生じさせている」は、「生じる」という自動詞に使役の助動詞「させる」と継続の補助動詞「いる」が付いたものです。 生じる (自動詞) + させる (使役) + いる (継続)
この文では、以下の2つの事実を挙げています。
- 現状では現場の作業員が個別に考えて実行しているに過ぎない
- 作業員によってコンクリートの強度に大きな差がある
そして、この2つの事実に因果関係があり、前者を原因、後者を結果と推定しています (……を生じさせているのではないか)。
この認知の流れをそのまま文として書けば、書き手が何をどう考えたかがストレートに伝わります。
(文2) 現状では現場の作業員が個別に考えて実行しているに過ぎないため、作業員によってコンクリートの強度に大きな差が生じているのではないか。
「生じさせている」を「生じている」に書き換えました。
わざわざ原因を中心に据えて (原因) が (結果) を生じさせる と書く必要はなくて、 (原因) のために (結果) が生じる と書けば十分です。これで因果関係も明確に表現できますし、余計な言葉がないので、書き手の意図も伝わりやすくなります。
今回取り上げたのは使役であり、受け身とは異なりますが、わざわざ他の事物を行為者に据える必要がないことは同じです。
ただし、「……が生じる」という表現にも検討の余地があります。この点については、別項で解説します。