- that節を入れ子 (=文の中に文を入れる) 構造として翻訳しない方法がある。
- 特に、that節に先行する動詞・形容詞を副詞的に翻訳する方法がある。
- note that ... は必ずしも「注意する」と翻訳しない
- make sure (that) ... は必ずしも「確認する」と翻訳しない
この章の目次
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英語には、動詞の後にthat節が続く表現がたくさんあります。 例えば、オンライン版のプログレッシブ英和中辞典 (第5版) には以下の例文が載っています。
この例文の場合は、I won't tellとpromiseしているわけです。promiseする内容がそのままthat以下に書かれており、promiseの目的語としてthat節がくる、つまり文の中に文が入るという入れ子の構造をしています。
この構造は、日本語で言い表す場合の構造と同じであり、意味も分かりやすいでしょう。
別の例文も見てみましょう。 同じくプログレッシブ英和中辞典から例文を引用します。
この文も、文の中に文が入る入れ子の構造をしています。
I'm afraid [(that) it will rain tonight] .この入れ子構造をそのまま反映させて翻訳すると、以下のようになるでしょう。
[今夜は雨が降る] と私は心配している。しかし、入れ子構造をそのまま訳文に反映させれば的確な翻訳になるかというと、そういうわけではありません。 どちらかというと、このI'm afraidは前置きの言葉です。 好ましくないことについて述べるときに、すぐに本題に切り込むのではなく、いったんクッション言葉を置いてから本題に入っているのです (こういう前置きの言葉が使えるようになると、英会話もぐっと楽になります)。
I'm afraidが前置きの言葉であるなら、翻訳するときにも前置きの言葉として翻訳しましょう。
あいにく今夜は雨が降りそうだ。
残念ながら今夜は雨が降りそうだ。
まず前置きの言葉だけ翻訳してしまうのです。 いったんI'm afraidまで翻訳して一区切りをつけ、改めてit will rain tonightを翻訳して後ろに付け加えるのです。
これもまた訳し下ろし技術の1つです。 形の上では、that節に先行する動詞や形容詞 (ここではbe afraid) を副詞的に (あいにく、残念ながら) 翻訳しています。
つまり、品詞を変換 (動詞や形容詞を副詞に変換) して翻訳したわけです。
この方法で翻訳すると、文を短く切って翻訳できるので、翻訳が楽になります。 長い英文の中を行ったり来たりして翻訳する間にうっかり誤訳が混入するリスクも減らせます。
もちろん、「あいにく」や「残念ながら」という前置きの言葉を使わずに、雨を期待していないというニュアンスを出すこともできます。 しかしここでは、that節を入れ子 (=文の中に文を入れる) 構造として翻訳しない方法があると覚えておいてください。
- that節を入れ子 (=文の中に文を入れる) 構造として翻訳しない方法がある。
- 特に、that節に先行する動詞・形容詞を副詞的に翻訳する方法がある。
この翻訳テクニックは、技術文書の翻訳にも応用できます。
note that
note that ... は注意を促すときに使われます。 一般には「注意する」と翻訳されます。
Perlではprintは演算子であることに注意してください。
しかし、特に注意を促さなければならない文脈でない限り、note thatを無視し、単に以下のように翻訳します。
note that ...は必ずしも「注意する」と翻訳しない
もうひとつ例を示します。
ウィンドウに3件のファイルが表示されることに注意してください。
特に注意を促さなければならない文脈でない限り、「……注意してください」と翻訳することはしません。例えば、何かの操作をした後の画面表示について説明している文脈では、単に画面表示に読者の注意を振り向けているだけなので、以下のように軽く翻訳します。
→ ウィンドウにファイルが3件表示されます。
note that ...の翻訳方法は文脈によっていくつも考えられますが、まずはnote thatが軽く情報を補足しているだけの場合もあると覚えておいてください。
make sure
make sure (that) ... はsureにすること、つまり、あやふやなところがない状態にすることを意味します。 一般には「確認する」と翻訳されます。
空フィールドがゼロとして扱われることを確認します。
この文は命令文なので、命令文の翻訳の原則に従って、単に「……します」と翻訳しました。
しかし、make sureで念を押している場合も多く、この場合に「確認する」と翻訳すると大げさな訳文になってしまいます。
例えば、以下の英文では
Make sure you also migrate all attributes such as users and privileges.
(?) ユーザや特権などのすべての属性も移行することを確認します。
youがこれから行うことについてmake sureせよと述べています。このmake sureは、物事を確認するように指示しているのではなく、migrateすることについて「あやふやなところがない状態にする」ように読者に促しています。
(×) ユーザや特権などのすべての属性も移行することを確認します。
→ ユーザや特権などのすべての属性も確実に移行してください。
この例文は読者に念を押しているので、読者に強く訴えるために、改訳ではあえて「……してください」と翻訳しました。
最後の訳文のうち、「……のすべての属性も……」は直訳調なので、「すべて」を移動すると、以下の訳文が得られます。
当初の訳文と比較してみてください。
(×) ユーザや特権などのすべての属性も移行することを確認します。
→ (△) ユーザや特権などのすべての属性も確実に移行してください。 → ユーザや特権などの属性もすべて確実に移行してください。
読者に念を押す場合は、「必ず」という表現も使えます。
make sure ...は必ずしも「確認する」と翻訳しない。
念を押す場合は「確実に」「必ず」と翻訳する。
もう1つ別の例を見てみましょう。この例では、make sureが「確実に」「必ず」という意味で使用されています。
(?) インストール用に300MBの空きディスク容量があることを確認してください。
この訳文ではmake sureを「確認してください」と訳出していますが、インストール前にディスクの空き容量を確認するのは当然のことなので、わざわざ読者に確認を求めているというよりは、インストールの要件を述べていると考えることができます。
翻訳臭を取るには、forの訳語を変えます。 forの訳語を変更できるのは、「確認する」という訳し方をやめたためです。
make sureのまとめ
最初に示した例文を使用して、文脈に応じてmake sureの訳語をどのように選択するかまとめておきます。 原文を再掲します。
- make sureを「確認する」と解釈する文脈
空フィールドがゼロとして扱われることを確認してください。
※ 読者に特に確認を求める書き方です。空フィールドがゼロとして扱われることを確認します。
※ 手順書きでは「……してください」ではなく「……します」で十分です。 - make sureを「必ず」と解釈する文脈
空フィールドは確実にゼロとして扱ってください。
空フィールドは必ずゼロとして扱ってください。
空フィールドはゼロとして扱わなければなりません。
空フィールドはゼロとして扱う必要があります。