技術翻訳ではa set of ...という表現をよく見かけます。
このようなときに、英語ではいちいちa set of ...というのですね。複数のパラメータの集合というニュアンスです。
上記の英文を日本語に翻訳してみましょう。setは集合を意味します。IT系のマニュアルではよく「セット」と訳出されています。もちろん「集合」と訳出することもできます。
元の英文の意味は反映していますが、直訳のきらいがあります。なぜでしょうか。
英語と日本語の違い
英文を見て気づくことは、いちいちa set of ...と書いていることです。対照的に、日本語では事物が集合を成しているかどうかを意識しません。同じ内容の説明を日本人技術者が英語で書くとしたら、おそらくa set ofと書かずに単に ... to generate parameters to be used ... と書くでしょう。もちろんa set ofを外したからといって誤りではありません。注目すべきは、英語では集合を意識するが日本語では意識しないという点です。
上記の試訳では「……のセット」と翻訳しましたが、直訳的な印象があります。原因は、英語で集合を意識している点をそのまま日本語訳に持ち込んでいる上に、日本語では「……のセット」という表現をほとんど使わないからです。そして、日本語で特に意識しないのにいちいち「……のセット (集合)」と言われると耳ざわりです。
低料金の翻訳ならこの程度の訳文で十分ですが、日本語の読みやすさを重視する場合は、もう一工夫してトゲを抜いておきたいところです。
再検討
日本語で集合を意識しない点を踏まえて上記の試訳を再検討します。
AlgorithmParameterGeneratorクラスは、特定のアルゴリズムで使用するパラメータのセットを生成するために使用する。
日本語では、generateする対象としてsetではなく、parameterを中心に置いて考えます。上記の英文でも、parameterを主役にして訳出することで違和感を解消できます。
1つの方法として「……群」と訳出する方法があります。「……群」と訳出することで、setに対応する訳語を補助的な語に格下げできます。
「……群」以外の訳し方もあります。考え方は同じで、日本語ではsetではなくparameterを思考の中心に置くことを踏まえて、setそのものを脇役に追いやります。
setであるかどうかがさほど重要でなければ、いっそのことsetを訳文から外してしまっても構いません。
ただし、setを訳文から外したときに、意図的に訳文から外したことがクライアントや (訳文の) チェッカーに理解されないと、訳抜けだと誤解されてしまいます。クライアントやチェッカーとの信頼関係が重要です。
a set of ...には類似表現もあります。