現在、日本語は漢字とかなを混ぜて書くのが一般的です。しかし、あまり知られていない漢字を使用すると、その文章を正しく読める人が限定されてしまい、書き手の意図が伝わりにくくなります。メディアの発達に伴ってこの問題は大きくなり、漢字の使用にさまざまな工夫がされてきました。
この、書き手の意図が読み手に正確に伝わるという点は重要です。現代はさまざまなメディアが情報を発信しています。発信した情報が、意図したとおりに読み手に伝わらなければ発信の目的を果たせません。現代は、ある程度まで書き手が読み手の知識水準に合わせることが求められています。
具体的には、難しい漢字 (字形が複雑な漢字や、使用頻度が低いために知らない人が多い漢字) の使用を制限して、平易な漢字で日本語を表記する方法が主流になっています。
日本では教育が普及しており、多くの人がこの程度は読める (読めてほしい)、という水準を設定することができます。この水準の目安として常用漢字表が制定されています。
常用漢字表は内閣から告示されています。内閣告示では、前書きで以下のように述べています。
この表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。
絶対的な基準ではなく、あくまで1つの目安という位置づけです。実際、常用漢字の中にも使用頻度の低い漢字があり、そのような漢字は読める人が少ない傾向にあります。また、常用漢字表にない漢字 (表外漢字) であっても多くの人が読み書きできる漢字があります。
しかし、小中学校の授業はこの常用漢字にのっとって行われますし、中学卒業までにある程度の範囲の常用漢字を学習するように教材が作成されており、日本人は常識的にこの程度の漢字を読めると見なすことができます。
常用漢字表は漢字の使用を制限するものではありません。しかし、特に情報の伝達を目的とする場合は、日本人にとって常識的な範囲の漢字を使用することで、多くの人が読める文章を書こうとする傾向があります。
例えば、表外漢字は常用漢字で書き換えられます。
日本語で使用される単語の中には表外漢字で表記されてきたものがたくさんあります。例えば義捐金 (ぎえんきん) はその一例です。しかし捐が表外漢字であるため、常用漢字を使って義援金と書き換えられました。現在では後者の表記が一般的になっています。
注: 歴史的には、常用漢字による書き換えより前に当用漢字による書き換えが行われており、現在の表記にもこの影響が残っています。しかし、なじみのない漢字の使用を控えるという考え方そのものに変わりはないため、ここでは書き換えがどの段階で行われたか厳密に考慮することはしません。当用漢字が廃止されて常用漢字が制定された後も書き換え方が変更されていないこと、および「援」が常用漢字であることから、常用漢字での書き換えを行っていると見なします。
表外漢字を常用漢字で書き換える場合、たいていは出版社や新聞社、学会などが新表記を決めます。そのため、多くの場合は表記が1通りに定まります。複数の表記が存在して表記に迷うという事態はほとんどありません。