翻訳テクニック集 目次

あえてカタカナ語に翻訳する

日本語に翻訳するときに、訳語としてカタカナ語を使用することがあります。例えば英語のcomputerを「コンピュータ」と翻訳したり、officeを「オフィス」と翻訳したりするのはごく一般的です。この場合の「コンピュータ」や「オフィス」といった外来語は、元の単語の発音をカタカナに移したものであり、広く受け入れられています。技術翻訳の場合は特にカタカナ語への翻訳が多くなります。

これとは別に、元の単語の発音とまったく無関係な外来語に翻訳することがあります。

例えば、手元のリーダーズ英和辞典を引くと、以下のように記載されています。

opportunity ―n 機会, 好機

もちろん「機会」や「好機」という解釈で間違いはないのですが、カタログやパンフレットで「機会」や「好機」と翻訳すると、キラキラ感に欠けた訳文になってしまいます。

そんな場合、私はあえて「チャンス」とカタカナ語を使います。辞書の訳語に「機会」もありますから、「チャンス」と翻訳しても特に違和感はないでしょう。訳文の読みやすさという点では「機会」も「チャンス」も変わらず、語感が違うだけです。むやみにカタカナ語を使うことには抵抗がありますが、漢語を使うと重苦しい場合や、時流の先端を行く雰囲気を演出したい場合には意図的にカタカナ語を選びます。

opportunityを「チャンス」と翻訳するのは受け入れられやすいのですが、もっと踏み込むこともあります。例えば、同じくリーダーズ英和辞典でadvantageを引くと advantage ―n (相対的に) 有利な立場, 優位〈of, over〉; 有利な [好都合な] 要因 [条件, 事情], 利点, 強み, 長所, 歩 (ブ); 好結果, 利益, 得, プラス と記載されていますが、「利点」や「利益」ではぴったりはまらないことがあります。

そんなとき、私はもっと踏み込んでadvantageを「メリット」と訳出します。ただし、この訳語は好みが分かれます。

「メリット」はmeritに由来する外来語ですが、英語のmeritは日本語の「メリット」とニュアンスが違い、「利点がある」という文脈では使いません。おそらく、meritが日本語に入るとき (または入った後) に、元の意味と違う意味に変化したのでしょう。

人によっては、このように原語の意味からずれた外来語は誤用であるとして嫌います。このあたりは日本語に対する考え方の違い (平たく言えば好みの問題) であり、一概にどちらが正しいとは言えません。

私は、広く一般に定着してしまったらそれは日本語として認めざるを得ないという立場なので、上記の「メリット」のような言葉も積極的に使います。このような訳語をクライアントが好まない場合は、こちらの考え方を伝えた上で話し合い、全体の印象を損なわないように折り合いをつけていくことになります。

翻訳テクニック集 目次

翻訳講座のご案内

翻訳のお問い合わせはこちら