英語の単位に関連して、日本語の助数詞についても触れておきます。
日本語では、ものの数を数えるときに助数詞を使います。助数詞は一種の単位です。
10人の生徒 (助数詞: 人)
バナナ5本 (助数詞: 本)
A4用紙100枚 (助数詞: 枚)
契約書を2部作成する (助数詞: 部)
助数詞は、数える対象の特徴によって使い分けます。例えば、細長いものは「本」で数え、薄く平面的な広がりを持つものは「枚」で数えます。
ただし、最近ではこの使い分けが退化する傾向が見られ、ほとんどのものを「個」で数える人も増えてきています。2010年ごろの話ですが、ビジネスホテルのフロントで、予約を受け付けていたらしいホテルマンが「お部屋2個ですね」と復唱していたのを聞いて驚きました。
この傾向は技術翻訳でも見られます。技術系の文書では日常生活でなじみのない用語を使うため、専門外の人は助数詞が思い浮かばずに「個」を使ってしまうようです。特に、IT分野で「個」が多用されていると感じます。おそらく、IT分野では実体のない概念を扱うことが多く、新しい技術分野ということもあって助数詞が普及・定着していないのでしよう。
確かに「個」で文法的に間違っているわけではありませんし、共同通信社の記者ハンドブックでも 助数詞の選択に迷う物品・物体は原則として「個」で数える としています。しかし、あらゆるものが「個」で数えられるわけではありません。
一般に「個」で数える対象はかたまり (固体) として認識されるものであり、実体のないものを「個」で数えるのには無理があります。実体もかたまり感もないものを「個」で数えると、稚拙な印象の文章になってしまいます。自然な日本語訳を目指すなら「個」以外の助数詞を検討しましょう。
技術翻訳に出てくる用語の中でも、実体をイメージできるものは楽に助数詞を選択できます。
サーバは機械をイメージできるので、1台、2台と数えられます。仮想サーバも物理サーバの延長上にある概念なので1台、2台と数えて問題ありません。
デジタル動画はデータであり、実体がありませんが、1本、2本と数えます。おそらく動画には映画やビデオテープにつながるイメージがあり、その数え方が引き継がれているのでしょう。
デジタルカメラで撮影した写真は1枚、2枚と数えます。写真以外の静止画も同様です。このあたりは具体的な物と対比できるので、自然に助数詞が出てくるようです。
では、ソフトウェアはどのように数えるべきでしょうか。
適切な助数詞が思い浮かばないと「個」を使いたくなるかもしれませんが、ソフトウェアを「個」で数えるのには無理があります。一般に「個」で数える対象は、かたまり (固体) として認識されるものだからです。実体がなく境界が曖昧なものは「個」で数えにくいのです。
ソフトウェアは1本、2本と数えるとスマートです。お店が商品としてソフトウェアを販売しているのであれば、他の商品と同じように1点、2点と数えることもできます。
文書ファイルはどのように数えればよいでしょうか。文書ファイルは物理的な原稿と類似しているので、原稿の数え方にならって1本、2本と数えて問題なさそうです。そのほかのファイルも、1980年代には1本、2本と数えていたように記憶しています。ただしネットで検索してみると、ファイルを「本」で数える事例はあまり見つかりません。現在、ファイルを1本、2本と数える人は少ないようです。かといって、実体のないファイルを「個」で数えるのには違和感があります。
このような場合は「件」が便利です。
ファイルを5件アップロードしました。
1500件中2件のファイルでウイルスが見つかりました。
「件」はエラーやメッセージなど、実体もかたまり感もないものに幅広く使えます。
3件のエラー
1秒あたり200件のトランザクション処理性能
未処理のデータが25件あります
とても便利です。「個」ではなく「件」で数えることで自然な日本語訳を作ることができます。もちろん、翻訳に限らず、プレゼンテーションや報告書の場合も印象がずっとよくなります。覚えておいて損はありません。