翻訳テクニック集 目次

接続関係の誤読を防ぐ

英語から日本語に翻訳するときには (その逆でも同様ですが) 語順が大きく入れ替わります。特に、英語の場合は動詞の後に目的語を置きますが、日本語では動詞が最後に来ます。例えば、以下の英文を翻訳しようとすると、 To enable the system monitoring feature, set up sysmon and follow the steps for integrating it with XYZ. 以下のような訳文を作ることになるでしょう。

(訳1) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定してXYZと統合するための手順に従ってください。

ただし、これでは「sysmonを設定して」が「XYZと統合する」に接続するように見えてしまいます。つまり、 [sysmonを設定してXYZと統合する] → ための手順 と読めてしまいます。これでは原文の意味からずれます。元の英文ではこのような解釈は成立しませんが、日本語に翻訳したために語順が入れ替わり、別の読み方ができるようになったわけです。

書き換えましょう。読点 (、) を入れて切り離してみます。

(訳2) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定して、XYZと統合するための手順に従ってください。

切るには切れましたが、読点を入れても [sysmonを設定して、XYZと統合する] → ための手順 という解釈を防ぐことはできません。別の書き方を検討する必要があります。

(訳3) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定した後、XYZと統合するための手順に従ってください。

単に「して」という漠然としたつなぎ方をしていた箇所を、順序関係を明確にするように変更してみました。

しかし、この書き方でも [sysmonを設定した後、XYZと統合する] → ための手順 という解釈を防げません。

誤読されない書き方をするにはどうしたらよいでしょうか。

そもそもの問題点は、「sysmonを設定して」や「sysmonを設定した後」が「統合する」にも「従ってください」にも接続し得ることです。「統合する」に接続しないようにするには、どのように書けばよいでしょうか。

ここでは接続先が「統合する」ですから、用言 (動詞や形容詞) を使って書いている限り、接続関係があいまいになる可能性が残ります。動詞を使わない方策を探りましょう。

(訳4-1) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定して、XYZとの統合の手順に従ってください。

(訳5-1) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定した後、XYZとの統合の手順に従ってください。

動詞「統合する」の代わりに名詞の「統合」を使えば、「設定して」や「設定した後」が「統合」に接続することがなくなります。特に前者の訳文の場合は「設定して」の後の読点を外すこともできます。

(訳4-1') システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定してXYZとの統合の手順に従ってください。

「……の……の」がうるさければ、後者の「の」を外すことができます。

(訳4-2) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定してXYZとの統合手順に従ってください。

(訳5-2) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定した後、XYZとの統合手順に従ってください。

手順を強調する必要がなければ、もっと直接的に書くこともできます。

(訳4-3) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定してXYZと統合してください。

(訳5-3) システム モニタ機能を有効にするには、sysmonを設定した後、XYZと統合してください。

一般に、英語では名詞 (名詞句・名詞節) を中心に文を展開していくのに対して、日本語では主に用言 (動詞や形容詞) を中心にして書きます。しかし、修飾関係が入り乱れる場合は、あえて用言を避ける方法が効果的なこともあります。

翻訳テクニック集 目次

翻訳講座のご案内

翻訳のお問い合わせはこちら