技術翻訳の例題です。以下の英文を日本語に翻訳してみましょう。
Do not capture the whole network because it might lead to out of memory errors. In case of large networks, you can use [Limit network size] option.
ネットワーク全体をキャプチャしないでください。なぜなら、メモリ不足エラーが発生する可能性があるからです。大規模なネットワークの場合は、[ネットワーク サイズの制限] オプションを使用できます。
注: 英語版画面のLimit file sizeが日本語版で「ネットワーク サイズの制限」になっているとします。
because以下を訳し下ろしている (原文の語順に従って翻訳している) 点は大変よいのですが、なんだか妙な印象の訳文です。
まず目に留まるのが「なぜなら」という表現。日本語で後から理由を述べるときに「なぜなら」で始めることはあまりありません。「理由は……」と書き換えてみても同じことです。
専門用語が並んでいると、そのニュアンスにまどわされて、日本語の感覚がはっきりしなくなります。もっとなじみのある例文で考えてみましょう。
こんなことを言う人はいないはずです。「なぜなら」は余計です。
末尾の「から」も余計です。普通は以下のように言います。
これだけで、後段が理由であることは十分に暗示されます。
技術系の文書でも同様です。むしろ、技術系の文書のほうが「なぜなら」を使わない傾向が強いようです。
冒頭に示した英文の場合も同様に、いちいちbecauseを訳出する必要はありません。訳文がわずらわしくなるだけです。1文目は、becauseを訳出せずに単に文を並べるだけで十分です。
2文目については、助動詞canの項で検討します。