技術文書では、一定の明確な意味を持つ用語が多数使われます。そのため、技術文書に出てくる用語は、多くの場合、一律に翻訳できます。
しかし、一律に翻訳できない単語も少なくありません。availableもその1つであり、英語から日本語に翻訳するときには意味を考えて訳語を工夫する必要があります。
手元にあるMerriam-Webster's Collegiate Dictionaryでavailableを引くと「present or ready for immediate use」と定義されています。手元にあるか準備ができていてすぐに使える、という意味です。意味自体は分かりやすいのですが、日本語の「使う」や「使用する」という単語の使用範囲とavailableの文脈が重ならない場合も多く、ぴったりの日本語訳が見つかりにくいことがあります。
This field shows the size of the file, if available.
このフィールドにはファイルのサイズ (使用可能な場合) が表示されます。
この文は、画面上のフィールドに表示される情報の説明です。availableを「使用可能」と翻訳していますが、この訳語は変です。誰かがファイルのサイズを「使用する」わけではないからです。
この文脈では、システムやソフトウェア製品など、読者から見えない裏側でファイル サイズの情報が取り込まれます。使用可能というよりは、取り込める、つまり取得可能という意味です。
これで正しい意味が反映されました。ただし、括弧書きが文の中に割り込んでいて、読んでいる途中で思考が中断されてしまいます。
元の英文ではif availableが文末に付加されていますが、そのまま日本語訳の文末に置いても訳文は分かりやすくなりません。
取得可能なのはファイルのサイズであり、「ファイルのサイズ」と「取得可能」は密接な関係にあります。これら2つの語句の間に「表示されます」が割り込んでしまうと、やはり訳文を読んでいる途中で思考が中断されてしまいます。
挿入句をどこに置くか
文を読みやすく分かりやすくするためには、密接に関係する語句を近くに置くのが原則です。しかし、括弧の中に「ファイルのサイズ」を繰り返してもくどくなります。
思い切って語順を入れ替えましょう。
→ ファイルのサイズが取得可能な場合は、このフィールドに表示されます。
この流れが日本語での思考に沿っています。
今回はavailableに「取得可能」という訳をあてましたが、他の訳語を使用することもできます。
ファイルのサイズが判明している場合は、このフィールドに表示されます。
ファイルのサイズが判明した場合は、このフィールドに表示されます。
文脈によってはこちらの表現がぴったりはまります。