技術翻訳でよく出てくるものの意外と翻訳しにくい単語にalternateがあります。手元のリーダーズ英和辞典を引くと、以下のように説明されています。
-a
1 交互の, 交替の, 代わるがわるの; 一つおきの, 互い違いの;【植】〈葉などが〉互生の (cf. OPPOSITE)
2 代わりの, 代理の, 既存のものに代わる (alternative)
辞書の訳語をそのまま引っ張ってきて「代替」と翻訳されることも多いようです。
(例) correct the assignment to use an alternate combination of a device and port
割り当てを修正して、デバイスとポートの代替の組み合わせを使用する
これは単語を置き換えただけの逐語訳です。alternateとcombinationをそれぞれ日本語に置き換えてつなぎ合わせ、「代替の組み合わせ」としています。
しかし、日本語で「……の代替の組み合わせ」と言うことはまずありません。
この方がまだましですが、「……の代わりの組み合わせ」という表現も聞きません。alternateは確かに「代替」や「代わり」という意味であり、上記の訳文で誤訳というわけではありませんが、日本語として引っかかります。
元の英文は、現在のassignmentが不適切なのでalternate combinationを使用してください、と述べています。現在のcombinationと違うcombinationにしてください、ということです。その意味を踏まえれば、 割り当てを修正して、デバイスとポートの別の組み合わせを使用する の方が本来の意味に近いです。
それでも、やはり引っかかることに変わりはありません。
下記の構造がよくないのでしょうか。
別の → 組み合わせ
語順を入れ替えてみましょう。
この方が日本語として据わりがよくなりますが、 [別のデバイス] とポートの組み合わせ とも読めてしまいます。短い語句「別の」が長い語句「デバイスとポートの」を飛び越えて「組み合わせ」を修飾するのは難しいのです。
訳文が引っかかる原因は語順ではなさそうです。
混乱したら出発点に戻る
原文に立ち返りましょう。
元の英文は、現在のassignmentが不適切なので現在のcombinationと違うcombinationをuseしてください、と述べています。その点では「別の」という訳はいい線をいっています。問題は「……の別の組み合わせ」という言い回しにあります。
現状と違うcombinationを使用するように、という意味を踏まえて、もう一歩踏み込みましょう。
文がシンプルになれば読点も不要になります。
引っかかりがなくなり、つるんと喉ごしよく読める訳文になりました。